その11

「一、俳諧百吟は、四折は面にして、表裏の句あり。
歌仙にては、いはばニの表は遊び所と知るべし。」

 一、俳諧百吟これは、先ほども申しました通り
四つの折、それぞれの裏表にわかれております
それぞれの折がそれぞれちがう働きをいたします
この仕事をこころえるのがまた大事の一つでございます

歌仙は簡略に三十六句、折りは二つ、それぞれに裏表でございますな
歌仙は二番目の表、このあたりがいわば、話の山場、俳諧が言葉遊びならば
遊びののうちの遊びはこのあたり
思い切って詠んでくだされ



「初折は地の句を専らにして、奇言怪言を好まず、直なるべし。
恋の句など其心得あるべし。」

さて、百吟を考えてみますに
最初の折
初折りと申しますが、これは、そろそろと始めまするな
身の回りの様子、今の景色、などなど落ち着いた句をもっぱらに
素直にあっさりと詠んだものをつないでまいります
なにやら、人を驚かすようなもの、人の気持ちを落ち着けないものは
遠慮いただきたい、ということで

恋句なんぞもそのうちでしてな、人の心がこう、動こうというもので
よいもので、なくてはならぬものではあるとは申すものの
初折りに出るものではございませんな
おだやかにおだやかに、でございます



「ニの折に至りては半地半節なり。初折の礼法を少し解めたるこころなり。
礼の用、和と言るが如し。」

二の折
ここになりますと、初折りのこう裃着たような気持ちが
すこし、ゆるんでまいりますな
なかば、しずしずと、落ち着いていながら、なかば話が動いてまいります

礼儀、礼儀ともうしますが、何のための礼儀でございますかな
人とひととの間を、まるく、気持ちよくするためのやりようということでございます
礼儀のやりように心のはいっておりません、やたら固いばかりのお方、
こういうかたは困り者、

なにごとも、なんのためにと、本と末を見ることが大事
そのあたりでございますな、二の折の心得とは
礼儀を守りつつ、気持ちよく、話をひろげ、
一座の方も気心のしれたお仲間になってまいります



「三の折は俳諧の遊び所なり。専ら花やかなる句を求め
おかしみを案ずべし。されども和して礼をわすれずとは
正風の姿情と心得つべし」
 
三の折
ここは、俳諧の俳諧らしいところと申しましょうか
歌仙で言えば二の表、

華やかな、きらきらしい句や、ひとを驚かす、おかしがらせる
そんな句はここが出所でございます
腕の振るいどころ、競いどころでもございましょうか
ぞんぶんに言葉で遊ぶ、楽しいものでございます

まあ、しかしでございます
ここの心持も、本のところでは、他の折とかわるもんじゃありません
悪ふざけの、そしりの、人の気持ちの苦しくなるようなものは
はなから、あたくしどもの俳諧ではございません

うちとけて、座は盛り上がりましょうが
人の礼儀はお忘れなく、句の姿はうつくしく、このあたり
何より大事とまあ、わすれず肝に銘じて遊ぶということで



「名残の折は一巻の首尾なれば、其座を屈しさせぬようにすべし。
匂ひの花、挙句等に至ては、尊貴の人を待たせぬるは不礼也。」

名残の折
最後、四番目の折となります
ここは、一巻のまとめ、せっかくの勢いの付いた流れ
ここで、留めてしまわぬように
さらさらとまいります

とくに、名残の裏の花、匂いの花なんぞともうしますが
みなさまもう、座も長くなり、また、なんといっても最後の華やかな花の句
何が出てくるかと、今か今かとお待ちになるのは人情
また、最後の挙句も同じ
花もことなく出て、長い一座もこれにておわり
お疲れも出ましょうし、また、百吟は長い旅のようなものとも
おわりに無事行き着くことをまっておりますわな
これこそは、さらさらと滞りなく詠むもので、
お客様を待たせるのは無礼というものでございますよ




「俳諧、其言語の遊びにして、信をもって交わる道なり。
妙句に一座を屈しさせんよりは、そ句に其座の興を調へよとなり」

俳諧は遊びだってさきほどから申しておりますがね
この遊び、一人じゃぁ出来かねるってのがまたおもしろさの元でございまして
一人のお楽しみ、二人でする遊びもあればたくさんお集まりになってのお遊び、
遊びもいろいろでございます、

俳諧というもの、人々より集いましての言葉遊び
つっぱっていたり、こう裃を着たようになっていたのでは始まりません
よく知らないお方同士でも、一巻詠み進みますうちに
だんだんと打ち解け、心根のよくわかったなじみになってまいります
詠んだ句は繕うことなく、お人柄が出るものでございますのでな

それが、なんとこの俳諧というあそびの眼目のひとつ
見事な句を詠んで、一座の方をあっと言わせてやろうとか、
うならせて見せようとか、それは俳諧の本筋とはいいかねます
見事は見事だけど、もう見事、立派過ぎて、だれも付けようがない
一座の方ただただ驚きいってみなさんだまってしまわれる
そんな句はいりません

そんな句よりも、
あたりまえの、普段のことばで、普段の気持ちを詠んだ句でいて、
それでいて、流れの中では、
前の句をひきたて、後の句に工夫のしどころをご用意する、
そちらのほうに、心をくだくことが大事の心得でございます
それでこそ、みなさまとよいお仲間にもなれるというもんですな


「一巻の変化を第一として滞らず、新しみを心がくべし。
妙句の古きよりは、あしき句の新らしきを俳諧の第一とす。」

一巻の中では自ずと流れ、興(おもむき)ができてまいります。
それに和するよう調えるようにですな。それが俳諧でございます。
同じような景色のままの見事な句より、
新しいものが開けておりますまずい句のほうが、俳諧ではまずは上といたします
おわかりですかな


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