連理秘抄 古歌ニ有リ2長歌・短歌・旋頭・混本之區別1。蓋シ連歌モ可シ2以テ類ス1矣。近古以來擧ゲテ^代ヲ握玩ス。風俗ノ所^向フ何ゾ必シモ褊センヤ^之ヲ。好事 之倫、各正シ2其ノ志ヲ1吟2詠スル性情ヲ1者、可シ^成ス2思ヒ無シ^邪之一助ト1焉。仍テ今爲メニ^隨ハンガ2童蒙之求メニ1、只述ベテ2自然之趣ヲ1、任セテ^筆ニ註緝ス。遺漏幾許个中、若シ加ヘバ2切瑳之功ヲ1者、向後蓋シ資セン2准的之要ニ1耶。 連歌は歌の雜體也。むかしは百韻・五十韻などとて連ぬる事はなくて、只上 の句にても下の句にても言ひかけつれば、いま半を付けける也。萬葉に尼が、  佐保河の水をせきあげて植ゑし田を といふに、家持卿、   刈る初稻はひとりなるべし と付けける。かやうの事、ふるき勅撰にもおほく見ゆ。天暦の御門、 さ夜ふけていまは眠たくなりにけり          滋野内待   夢に逢ふべき人や待つらん これらはみな口ずさみのやうにて、たゞ言ひ捨てたるばかり也。一座の懷紙な どは見えず。中比もつゞけ歌といひて、月の夜・雪の朝、扇・疊紙風情の物に、 二・三句など書き付けけり。  しかあるに、建保の頃より、後鳥忠@ことにこの道を好ましめ給ひて、定家・ 家隆卿など、細々に申し行なはれけるにや。懸物百種を句にしたがひて給 はせけるなど、この人々もおほく記しおかれたり。八雲の御抄にも、末代こと に存知すべしとて、式目など少々しるさるゝにや。爲家・爲氏卿みな相續し て賞翫せられける故に、この道いよ/\盛りにして、家々の式など多く流布 せり。近比、爲世・爲相卿、爲道朝臣みな達者にて、朝夕にもてあそばれけり。 地下にも花の下・月の前の遊客上手おほくきこゆ。當時も本式・新式などいひ て、方々にわかれ所々に集會す。時移り風變じ侍れば、何事も株を守るべき にあらず。たゞ人の好むところにしたがひて、偏執をなさずして、當時の明匠、 代の用ゐる所をあふぐべし。僻案條々、愚意にまかせていさゝか左にしるす。 これみな他をヘふるにあらず。自らをたすけんと也。 一、連歌は心よりおこりて、みづから學ぶべし。さらに師匠のヘふるところに あらず。常に好みもてあそびて、上手にまじるべし。いかにすれども、堪能に 交はらざればあがる事なし。不堪の者にのみ會合して稽古せんは、中々一向無 沙汰なるにも劣るべし。初心の程、ことに用心すべき事也。達者猶しばらくも 邊土に隠居しぬれば、やがて連歌の損ずるはこの故なり。夙夜に好みて、當世 の上手の風體を、彼等がする所の懷紙を見てよく/\心をとゞめ、詞をとりて 風情をめぐらすべし。只堪能に練習して、座功をつむより外の稽古はあるべか らず。その上に、三代集・源氏の物語・伊勢物語・名所の歌枕、かやうの類を 披見して、有ル^興さまにとりなすべし。  言葉の幽玄は生得の事なり。それも初めよりこはき連歌に練習しぬれば、や がて詞あらくなる。幽玄なるにならへば、生得に不堪なる人も風體を得る也。 初心の人、ことに優しくおだやかに、具足すくなくする/\としたる句を思ふ ところなく口輕く付くべし。この他ゆめ/\稽古に故實も口傳もあるべからず。 一、才學はあながちに入るべからず。但、又一向に無沙汰にては上手の名を取 りがたし。古歌をよく/\覺悟すべし。されども、取る樣を知らざればをかし き物になる也。あさひやかに取るべし。さながら古物のやうなるもわろし。又 一向本歌とも聞こえぬも詮なし。取樣は上手のしわざを學ぶべし。下手はすべ て本歌・本説を取り得ぬ也。名所などはゆめ/\無用の時出だすべからず。た ゞ、花といはんに吉野、紅葉といはむに龍田、あながちに詮なし。但、珍しき 物いできたらんに、名所ならで付けがたき事のある也。加樣の折は難にあらず。 詮なき時、耳遠き名所・異物さらに出だすべからず。これ、本式・昔連歌など の所爲也。ゆめ/\好むべからず。 一、初心の程、あながちに思案すべからず。初一念といふがごとく、思ひ寄る ところを、とかく案じ亂す事なくて、やがて出だすべし。但、外人など上手お ほからむ座にては、聊か斟酌すべし。連歌は猶上手になりて後も、善惡をひし と治定する事はかたし。下品の句と思へども、點者の意巧によりて長點などあ る事、つねの事也。これは點者の惡きにてもなし。我善惡を辨へざるにもあら ず。只時によりて心にそむ事のあるにや。堪能猶如シ^此ノ。いはんや未練の者 、善惡を辨へがたし。所詮、口輕くしなして心地を沈むべからず。かく言へばと て、一向に付かぬ句をせよとにはあらず。只風情及ばず詞も足らぬを、とせん かくせむと案ずれば、初めの案よりも猶惡しく案じなす事ある也。加樣にて、 人にふと越されてちゞけだちぬれば、あがる事なし。又物ぐさくなる因縁也。 言葉あくまで優しく、寄合すくなく、する/\とすべし。  さのみ花月の句を好むべからず。くたして返されぬれば無念也。言葉は幾度 返りぬれどもつまる事なし、景物はかまへて上手に與へて、左右なく出だすべ からず。おほかた、長高き句をゆく/\とすべし。 一、心を第一とすべし。骨のある人は、意地によりて句がらの面白き也。たゞ 寄合ばかりを多く覺えて、古材木をさし合はせて取り立てたるばかりにて、我 が力のいらぬは、返々面白き所のなき也。連歌には小宛といふ事あり。それ を心得ぬ人は、只寄合ばかりを覺えて、幾度も古物をくさりたるまでにてある 也。おのづから仕合はせて點などあれども、新しき物とは見えず、當座の感も なし。させる句にてはなけれども、心ありて細きには、一座も面白く付けよき 也。所詮、付けよきは良き連歌也。付けにくきは惡きに心得べし。大事の名 所・異物などにて付けがたからんは、此の限りにあらず。させる大事の所なき 句の、などやらん付けにくきは、疑ひなく下手の句にてある也。その故は、以 前の句に美しくくさるべきに、いかにも前の句に思ひあはぬ句の出で來る折に、 連歌はつまる也。又詞こはく具足多きは付けにくし。  抑、花月の句をさのみ取り洩らさじと、あながちに求むる人あり。愚意には 返々詮なし。只詞たくみに心ゆたかたれば、景物ならねども秀逸をばする也。 詞の足らぬ故に、景物にて飾りたてんと奔波する程に、あながちに好み付くる 事、見苦しく侍り。或人の云はく、「花の句は最も大事の物也。一座になほ一 句を得がたし」。此の事まことによく/\思慮すべし。幽玄の景物を荒蕪の詞 にてけがす事、尤もいたましき事なり。 一、詞は花の中に花を尋ね、玉の中に玉を求むべし。さればとて、一向心もな き句を、言葉ばかりにて優ばまむと、春の曙・秋の夕暮とばかりいひて、當世 はかやうにこそあれと心得たる人、初心の中に常に侍り。これは中々本式・昔 連歌のこはく確かならんには劣りて、返々傍痛くきこゆるなり。おほかた は、代々勅撰の言葉を出づべからずといへども、新しく仕出だしたらんも、又 俗なる詞も、連歌には苦しみあるべからず。但、一向物も知らぬ輩は、俗に 混じてきたなき事をする也。それをばことに斟酌すべし。凡は、心ひしと付き て秀逸になりぬれば、少々は言葉の惡しきも、あながちに難にきこえず。しか れども、常の地連歌に、言葉の幽玄はあらはる也。本式・上古の連歌は、心確 かなれども詞をかざらざる程に、聞きにくゝて面白き所のすくなき也。田舎連 歌などいふ物を聞くに、いかにも/\寄合を洩らさじと付けて詞を思はざる故 に、下種しく強くきこゆる也。姿・風髄はいかにも詞の花にあるべし。生得の 言葉きゝは、細かに云ひくだきてあい/\ときこゆ。それが不足なる人は、寄 合を取り集めて洩らさじと付くる程に、細やかなる所なく、あつくろしき物に きこゆる也。心もさる事にてあれども、詞のきゝたるは、いかにも骨を得たる 人にてあるべし。心はそむきたれども、詞の便りにて付くるも一の體也。是は 一筋に心を捨つるにはあらず。そむきたる樣にて、しかも言葉が心になること のあるべきにや。詞きゝの句は、いかにもしみ/\”としをれたるやうにて、 付けよく面白くおぼゆる也。たゞ、上手の常に用ゐて幽玄ならん言葉を、耳の 底にとゞめて、能々思案すべし。口はまことに生得の事也。 一、てにをはは大事の物也。いかによき句も、てにをはの違ひぬれば、惣じて 付かぬなり。事により樣にしたがひて、ことに斟酌すべし。にの字は上の句に てはよし。下の句にては聞きよからず。ての字又上の句にてよし。下の句にて はわろし。加樣の事も、せでかなふまじき所のあらんには、嫌ふべきにあらず。 ても・とも一向是をとゞむべし。のの宇、一座一句といへども、いまだ一切見 ざる所也。或は上の句にてよきもあり。下に置きてよきもあり。兼ねて定むべ きにあらず。又物の名などに重ねたる、常時常に見ゆ。これ一の體也。歌にも あるにや。物の名にも限るべからず。言にてもくさるべし。又面白く珍しき、 上手の仕出だしぬれば、いかにあらき事もよくなる也。すべて、言葉もてにを はも、いづれよしあしとも定めがたし。只作者の風骨にあるべし。 一、賦物昔よりしつけたる事なれば、尤も沙汰すべし。但、初心の人、こは 賦物さらに好むべからず。賦物こはくなりぬれば、句がらの惡くなる也。あな がち沙汰せずとも、事缺くべからず。但、限りある賦物、ことに覺悟すべし。 又源氏國名などやうの事をも、時には沙汰すべきなり。 一、嫌物は尤も沙汰すべし。先づ新式をむねとすべし。彼の式に洩れたる事又 繁多也。少々の事は當座の堪能にまかすべし。末學未練のともがら、異論に及 ぶべからず。眞實よき句になりぬれば、少々嫌物あれども點はあふ也。但、人 の意巧にあるべし。愚意には、眞實秀逸にてあらば、少々の嫌物に目をかくべ からず、合點すべき也。知りながらせよとにはあらず。誤りたる時の事也。そ れもあまりに露顯したらんは、然るべからず。只詞などの指合也。加樣の事は たゞ人の所存にあるべき歟。 一、連歌の體も、至極堪能になりぬれば、時によりて仕かふる事のある也。假 令、勝負の連歌などには、確かに一定點ありぬべき樣に、ひしと付くべし。景 物又大切也。只當座の會などに興を催さんためには、少々いはれぬ樣なる事を も、面白く幽玄に聞きどころあるやうにすべし。又點者の意巧を知りて仕かゆ る也。されば、かねて點者を定めて勝負する事はなし。但、是は堪能無上の人 の所爲歟。愚意には更にかなふべしとも覺え侍らず。 一、一座を張行せんと思はば、まづ時分を選び眺望を尋ぬべし。雪月の時・ 花木の砌、時にしたがひて變はる姿を見れば、心も内に動き言葉も外にあらは るゝ也。おなじくは、眺望ならびに地景あらん所を選ぶべし。山にも向ひ水に も望み風情をこらす、尤も其の便りあり。稠人・廣座・大飮・荒言の席、ゆめ /\張行すべからず。すべて其の興なし。興盡きぬれば、五十韻一折にてやが て止むる事、返々無念第一也、おほかた、百韻にたらぬ一座,さらに其のu なし。時をうかゞひ折をえて、この道の好士ばかり會合して、心を澄し座をし づめて、しみ/\”と詠吟して秀逸を出だすべし。 一、會着ことに堪能を選ぶべし。不堪兩三に過ぎば、まことに難治と可シ^謂フ。 但、初心の人たりといふとも、言葉ほそく寄合すくなからん連歌は、一座のさ またげに及ぶべからず、詞こはく景物おほき連歌を度々返されぬれば、風情を 失ひてさらに寄所なし。加樣の人はまことに魔障なるべし。又異議異論uなし。 いかにも椹能一人の批判をあふぎて、同心の思ひをなすべし。又是非邪正を辨 へざる者の中にては、いかなる上手も連歌のしにくき也。秀逸をばそしり、 荒句をば褒美す。かやうになりぬれば、我ながら用捨に迷惑して、すべてその 勇みあるべからず。殊に上手を集めて感興を催すべし。 一、上手も下手にあひて、不慮に勝負などに負くる事もある也。但、四・五度 にも及ばば、終にその人の勝劣はあらはるべし。何とも點の數はあれ、句柄の こはく下種しきは不ル2甘心セ1事也。少々點はなくとも、口細く優しく詞きゝ たらんは、行末も頼もしく、終には上手になるべき也。されば勝負を好むべか らず。點をのみ心にかけては連歌の損ずる也。十方點・千句などにて、人の勝 劣をば知るべし。努々一兩座にてはその名を定むべからず。又堪能に成りぬれば 、その人の句を互ひに見しる也。但、當道を執する輩、又矯飾の合點あるべから ず。且わが不覺にもなるべし。大方、連歌の點といふ事は、近來出できたる事也。 只當座勝負を決せんために、我より下の者にも墨を付けさしむる、常の事也。あな がちこれを執すべきにあらず。又いかなる上手も、我がする程、人の句の善惡を辨 へむ事有りがたければ、自他斟酌もありぬべき事也。 一、連歌の道、ことに風體を先とすべし。人の心、上古末代に移り變はるごと く、此の道もすべて時により折にしたがひて風體の變はる也。上古の姿をこそ 學ぶべけれども、連歌はもとより古人さ程もてあそばざる間、いかなるを詮と いふ事なし。只當世の風俗にしたがひ、先達の所存にかたひて、堪能の名をと るべき也。上古・中古・當世、鎌倉・京、本式・新式、色々樣々にしかへたり。 所詮、當時新式上手の風體といふは、先づ詞幽玄にして心深く、物あさきやう にするを詮とすべし。但、力なく、景物のあまた入らでは、かなはぬところの あるにや。それは又別の事也。堂上にも少々名譽の人々侍れども、いかにも當 時は地下のなかに達者はあるなり。秀逸の體は樣々なれども、愚意には、寄合 洩らさずひしと付けたるも子細なしといへども、いづくいかにと付けたるやら んと覺ゆるを、よく/\案ずれば、おのづから深き心のあらはれて、幽玄なる 面影そひて、聊か理ありて、下が深く付きたるが、面白く覺ゆる也。又見るや うにはな/\”とあるも其の興あり。凡はいづれと定むべきにあらず。良きは いかなるも良く、惡きはいかなるも惡し。更に一樣を守るべからず。種々の體 をならふべし。いかにもちと言はれぬからと思ふやうなるに、餘情のそひて良 き句はある也。  大方、連歌はやすきところの大事に、大事なるがやすき也。かやうの事こそ よく/\了知すべき事にてはあれ。やすきが大事なると申すは、假令、   さびしかりけり秋の夕暮 といふ句のあらんは、寄合も風情もゆたかにて、雲霧草木に付けても付けよく こそあらむずれども、是を人々案じてしたりと思ふとも、すべてこの旬にかけ 合ひたる秀逸は、十句に一句も有りがたし。その故は、たゞ鹿をも鳴かせ、風 をも吹かせなどしたるばかりにては、うるはしく秋の夕暮の寂しく幽かなる景 氣もあるべからず。只かたのごとく、時節の景物を案じ得たる許にて、下手は よく付けたりと思ふべし。眞實の上手の此の句を了知したらむは、風情をこら し心をくだきて、ことに思ひ入りて付けんとたくむべき程に、第一の難句にて あるべし。此の句によく付きたる句にてあらば、秋の景氣の凄く幽かに面影そ ひて、優しくもげにもと覺ゆる感情の浮ぶべき也。是はすべて/\有りがたし。 この句にてやすきが大事なるを知るべし。又大事なるがやすきとは、假令、    目より薄は生ひ出でにけり といふ句に、   物のふの野邊に射捨つるわれかぶら かやうのことは、まことに景物も風情もなくて、大たる難句と見えたれども、 能々案ずれば、有ル^興寄合一つをだにも構へ出だしたば、あながち骨の折るま じき也。只心きゝてさもと覺ゆるばかりにてこそあれ。まことに風情もこもり沈 思したりとは見ゆべからず。されば、かやうのくせ句を有リ^興て付くる事は、 させる上手にてなけれども、心きゝたる人はおのづから仕出だす事もありぬべし。 さかの秋の夕暮は、眞実、意地も餘情もあらはれて、第一の難句歟と覺ゆ。自餘 これらにて可2了知1。又、寄合もなく付けにくからん句には、一句を飾りたてて 幽玄に付けぬれば、細かなるあひしらひはなけれども、餘情のそひて面白くきこ ゆる也。かやうの事はまことに故實にて侍るべし。  何事もいたりてよきといふは、すべて繕はでおのれなりなるを最上といぶべ し。輪説を好み珍しき所を求むるは、至極の奥旨にいたらざる時の事也。連歌 も又如^此。只常の切の眞実なるを、我が力をいれて、心の底より珍しく面白く 付けなさんずるぞ、堪能にてはあるべき。  大方、取るべぎ所を取り、捨つべぎ所を捨つるは上手也。取るまじき所を取 り、捨つまじき所を捨つるは下手也。所詮、此の句には是こそ取り寄るべき所 よと見えて、さし出でたらん詞にても寄合にてもを目にかけて、枝葉を付くべ からず。さのみ前の切の寄合を洩らさじとすれば、句がらも極めて下品の物に なる也。たゞ肝要を目にかくべし。或は詞にて付けて心を捨て、心を付けて言 葉を捨て、又寄合にて心詞を捨つることもあるべし。付所はたど一かど一ふし にて、しかも一はた付きたるやうなるが、秀逸にてはある也。言葉あらく景物 おほく、かしがましきやうにて付けにくきは、下品の句也,但、寄合あまたな くてはかなはぬ事のあらんは、この限りにあらず。連歌の善悪、たゞ是等にあ り。まことに、する事のかたきにはあらず、よくする事のかたき也。もてあそ ぶ者はおほく、名を得たる者はすくなきにや。 一、寄合は作者の風骨によりて、すべて定まりたる所あるべからず。戀の句に 人を忘るゝとも付くべし。月の句に雨の降れかしとも、花の句に風の吹けかし ともすべし。これはすべて世に背きたるやうなれども、句の體にしたがひて、 上手の面白くとりなす也。又、見るやうに隠れる所もなく、月とあらば山の秋 風とも、花とあらば峯の霞とも、加樣の物をちとも働かさで、景気眺望を興あ りて付くるも子細なし。又、秋といぶ句に春、野といふに山、朝といふに夕、 かやうに引這へて付くるも一の體也。又一向言葉の縁も寄合もなくて心ばかり にても、又一文字・二文字にて何のあひしらひもなけれども、付くる事もある 也。かやうの事、すべて色々の姿心ありて、言の葉にもあまり筆にもつくしが たし。心より起こりておのれと了知すべきにや。但、品々をたてて先づ少々を あらはすべし。この名目、努々古く言ひならぱせるにあらず。只常座の今案也。  大方、かやうの言葉は、何事もその道にむきて、珍しく聞きなれぬ事ども多 きにや。それを聊かつくろはずして、わざとありのまゝに書きつけ侍り。古き 物語・源氏などいふにも、その頃の人の常に用ゐたる言葉の、いたく末代には なきを、ありのまゝに書きたる事どものあれば、それがやがて難義などにもな り侍るにや。この道一向に遊戯にてあれば、中々それを改めずして書きたらん こそ其の興も侍るべけれ。 平付の句 これは樣もなく、見る所をありのまゝに付けたり。 四手   餘情などはなくて、確かに切り組みたる樣なるべし。 景氣   これは眺望などの面白き體を付くべし。 心付   言葉寄合を捨てて、心ばかりにて付くべし。 詞付   寄合心を捨てて、言葉のたよりにて付くるなり。 埋句   上には付かぬやうにて、下には深き心あり。 餘情   これはいさゝか言はれぬやうなるに、餘情のありて面白き也。 相對   春に秋、朝に夕、山に野などの類なり。 引違   月の夜に雨を戀ひ、花の句に風を忍ぶ類也。是は殊に上手の興あり      てとりなす也。 隠題   秀句などいふもこの中にあり。物の名などを言葉にて隠す也。 本歌   一首三句に渡るべからず。逃歌あらば付くべし。件の逃歌、さきの      歌を取りたる後代の歌にてあらば不^可カラ^用フ。又新古今以來の      作者、本歌に堪へず。堀河院百首の作者まで取る也。證歌には近代      の歌も子細なし。古き作者は近代の勅撰の歌をも取るべし。 本説   大略本歌におなじ。三句に及ぶべからず。詩の心・物語、又俗にい      ひつけたる事も寄合にはなる也。 名所   ことなる用なき時、努々出だすべからず。當世常に隠してする、一      の體也。假令、河の名のいくたび、此の山のおのれ、下草のおいそ      の森、風の音志賀の山などいふ樣の事也。眞實名所ならで付くまじ      き事のあらんには、たゞもすべし。又肝要の時は、耳遠き名所をも      すべし。詮なき名所ゆめ/\停止すべし。 異物   常に用ゐざる所の鬼風情の物也。時によるべし。珍しき物、目覺て      興ある事もあり。下手のしたるは極めて付けにくし。かやうの恐し      き物なればとて、句がらの荒くなる事はなし。口の優しき人のした      るは、極めて幽玄にきこゆ。もとより口こはき人の句にては、やが      て鬼のやうになるなり。よく/\用心すべし。花月の恐しきもあり。      鬼の優しきもあり。その物によるべからず。作者の骨にあるべし。 狂句   是は定まれる法なし。只心きゝて興あるやうにとりなすべし。 此の外さまぐ/\”の付樣侍れども、まづ少々しるすなり。かやうに書き分け 侍ればとて、毎句にこの品のあらはるべきにあらず。自らかゝる類も出でくべ きを、一旦あらはすばかり也。  よき句と申すは、いかにも心も言葉も寄合もみた付きたるやうにて、しかも 現はれてかしがましきやうに聞こえぬ也。古き句などを見て、これこそ平付よ 心付よなど定めむ事は、ゆめ/\かなふまじき也。さやうに心得たば、一句も 悉く是にかなひたるは有りがたし。常は只心詞の付きたる句にてのみあるべき なり。  おほかた、餘りに幽玄ばかりにて、珍しく目の覺むる方のなからん人は、時 々珍しき樣にもしならふべし。又言葉生得にこはき人は、幾度も優しき事を好 むべし、幽玄にて惡き事はあるまじけれども、連歌の小さくつまりたるやうに なる事のあるにや。能々用心すべし。 一、發句は最も大事の物也。おぼろげにては得がたし。良きはみな古事なり。 さらでは又下品也。達者猶至極の大事とす。いはんや末學をや。只あさ/\と 中々當座の體などを見るやうにするも一つの體也。しかあれども、いかにも發 句は力入りて、ひとかどその詮のあるがよき也。叉當座の景氣もげにと覺ゆる やうにすべし。いかにも心を廻してすべきなり。其の詮のなきは、句に力なく てわろき也。心を深く埋みて、きと心得ぬやうにするも一つの體也。隱題・言 葉のくさり・本説以下勝計すべからず。かな・けり、常の事也。この他、な し・けれ・なれ・らん、又常に見ゆ。所詮、發句はまづ切るべき也。切れぬは 用ゐるべからず。かな・けり・らんなどやうの字は、何としても切るべし。物 の名風情は切れぬもある也。それはよく/\用心すべし。  おほかた、よき發句、今はすべてあるまじき也。されば、上手も中々常の物 をのみ出だす也。古きをしたるは無下の事なるべし。發句の惡きは一座けがれ て惡く見ゆ。左右なくすべからず。幾度も堪能にゆづるべし。又發句に時節の 景物そむきたるは返々口惜しき事也。ことに覺悟すべし。景物のむねとある がよきなり。 正月には  餘寒 殘雪 梅鶯 二月には  梅 待花より次第に、三月までは、只花をのみすべし。落花まで       毎度大切也。 四月には  郭公 卯花 新樹 深草 五月には  郭公 五月雨 橘 五日菖蒲 六月には  夕立 扇 夏草 蝉 螢 納涼 七月には  初秋の體 荻 七夕(七日許也) 月 八月には  月 草花 雁 九月には  月 紅葉 暮秋 十月には  霜十二月まで 時雨 落葉 待雪 寒草十一月まで 寒風十二月       まで 十一月には 雪 霰 十二月には 雪 歳暮 早梅但、可入冬詞 此の外時によりて、當座の體何にてもあれ苦しみあるべからず。又都にて野山 遠山は許歟すべからず。おほかた、あるまじき事を制する也。都にて庭に鳴く鹿 などの風情、おなじくこれを嫌ふべし。晝、夜の景物ゆめ/\すべからず。 但、明月の良辰にはこれをゆるす 夜、晝のをする事も時々あるべし。自餘又准 知すべし。 一、脇の句又以て大事也。物淺きやうにする/\としたるも一つの體也。いづ れも發句によるべし。只の下の句の樣なるもあり。又變はりたるもあり。いか にも聊か變はるべき也。只思ひ合ひたるやうにすべし。離れ/\”なるは惡きな り。洛中にて野山をせざる事、發句におなじ。すべて、安かりぬべきを違へて、 離れたるを連ね、思ひの外なる事をのみ言ひたちぬれば、いかにも連歌のつまる 也。發句・脇の句より、次第にする/\と付けよきやうにしなすべし。上手の一 座は、上は長閑にて早くゆくなり。下手の寄合ひたるは、或はつまり或は物騒が しくて、感興を催さず、風情を失ふ也。道をもてあそび會をくはだてん人、こと に此の事を存ずべし。 一、連歌の嫌物は、家々の式まち/\に侍れども、當時建治の新式を指南とす る也。彼の式に洩れたる事、又多く侍るにや。人々の所存も不同にして、邪正 を定めがたし。只堪能の諷諌にしたがひて、末學の異議に及ぶべからず。仍り て、式の文に會釋を加へ、先達の説を規模にそなへて、形のごとく注し集むる ところ也。是ひとへに當座の異論を止めむとなり。更に將來の證判に堪へず。 一、韻字   物の名と詞の字と是を嫌ふべからず。(物の名と物の名と又可シ^嫌フ^之   ヲ)   つゝ けり かな らん して 打越を可シ^嫌フ。他准ズ^之ニ。 一、輪廻   薫物といふ句にこがると付きて、又紅葉を付くべからず。舟にてはこれを   付くべし。こがると云ふ字變はる故なり。   煙といふ句に里と付きて、又柴たく・薪などの類を付くべからず。他准ズ    ^之ニ。 一、遠輪廻   假令、花と云ふ句に山の霞と付きて、又不^可カラ^付ク^之ヲ。雖モ^   隔ツト2敷句ヲ1、一座に可シ^嫌フ^之ヲ。他准ズ^之ニ。 一、本歌   三句に渡るべからず。本説・物語ノ心同ジ^之ニ 但、逃歌あらば是を嫌   ふべからず。件の歌、若し以前の歌を取りたる後代の歌ならば、是を用ふ   べからず。凡新古今以來の作者不^可カラ^用フ^之ヲ。本歌は堀河院百   首の作者までを取るべし。又雖モ^爲リト^2近代ノ勅撰1、古人の歌をば   取るべし。證歌は近代も可シ^引ク^之ヲ。 一、一座一句物   若菜 藤 款冬 躑躅 杜若  如キ^此ノ植物類、   鹿 猿 鶯 郭公 螢 蝉 日ぐらし 櫻貝(櫻、外に用フ^之ヲ) 無   名蟲 如キ^此ノ動物類、   昔 古 夕暮 昨日 五月雨 夕立 村雨 早雨嵐 木枯 隠家 懸樋   梯、 朝日 夕日 朝月 夕月、 如ク^此ノ言ひ續けて各一句。 一、一座二句物   春月(只一、在月一) 夏月同 冬月同 曉(只一、其の暁とて一) 春   風(此の外春の風一、但、風春副ヒテハ准ズ^之ニ) 秋風同前 松風同前   夕二用^之 今日同 庵いほり一 故郷(只一、名所在リ2此内ニ1、旅一   )雁(春一、秋一) 旅字(只一、旅衣などいひて一) 宿(旅一、あま   のやどなどいひて一) 面影(戀一、雑一) 老(身の老一、木・鳥など   にて一)   成りにけり ものを 思ひしに、如キ^此ノ類、置所をかへて二句用フ^   之ヲ。戀しく 戀しき、恨み 恨む、如ク^此ノ言ひかへて二度用フ^   之ヲ。他准ズ^之ニ。 一、一座三句物   花ハ三用フ^之ヲ(此の外、浪の花、はなぞめの袖などいひて、又一句用   フ^之ヲ) 櫻(只一、山櫻・遲櫻とて又一、さくらの紅葉などいひて又   一) 梅(只一、梅・冬木、此の内、引き合はせて三句用フ^之ヲ)   柳(只一、柳一、冬木、もしは紅葉など云ひて一) 紅葉(只一、梅・   櫻にて一、草のもみぢ一) 木の葉(只一、松のおち葉一、柳ちるなど   云ひて一) 都(只一、名所一、もとの都一) 鹽(只一、やきしほ一、う   しほ一) 鐘(夜一、入逢一、釋ヘ一) 文(戀の玉づさ一、文一、文章一   ) 如キ^此ノ類、雖モ^體ト三句可シ^用フ^之ヲ。 一、一座四句物   雪(三用フ^之ヲ、此の外、春雪一) 有明(四季各一) 代(御代一、述   懷一、戀一、こむ世、のちの世などいひて一) 氷(只一、つらゝ一、月の   氷、涙のこほりとて一、しも、ゆきのこほるとて一) 如キ^此ノ類、四句   可シ^用フ^之ヲ。 一、數度可キ^用フ物   月去ル2七句ヲ1 霞同 霧同 涙同 夢同 松同 竹同 舟同 日去ル2   五句ヲ1 風同 露同 雲同 煙同 野同 山同 浦同 浪同 水同 路同   庭同 如キ^此ノ類、數度可シ^用フ^之ヲ。他准ズ^之ニ。 一、可キ^嫌フ2打越ヲ1物   隠家 岩屋 關戸 以上居所に可シ^嫌フ2打越ヲ1 霧に降物同   種 野邊色づく 冬枯の野山(植物に打越嫌フ^之ヲ)   非ザル2同字ニ1人倫同 時節同 竹に草木同 碪に衣裳類同 戀に思(随   ツテ2句體ニ1嫌フ^之ヲ) 老に古、身にしむ 寒し、獨に一 雲に曇る   面影に影 片身に見る 顧みるに見る 梢に末 昔に古の字 音に聲 鳥の   ねぐらに植物 遠しに遙かなり、思ひし 有りし、思はぬ せぬ らん、    如キ^此ノ類、可シ^嫌フ2打越ヲ1。自餘准ズ^之ニ。 一、可キ^隔ツ2三句ヲ1物   月 日 星(如キ^此ノ有ル^光物) 雨 露 霜 雪 霰(如キ^此ノ降   物) 霞 霧 雲 煙如キ^此ノ聳物 蟲與鳥 鳥與獸(如キ^此ノ非ザル   2同類ニ1動物) 一、可キ^隔ツ2五句ヲ1物   同字 木與木 草與草 獸與獸 鳥與鳥 蟲與蟲 戀興戀 旅與旅 水邊與   水邊 居所與居所 夜與夜 夕與夕 述懷與述懷 ~祇與~祇 釋教輿釋教    祝言與祝言 山與山ノ名所 月與月次月 日與日次日 如キ^此ノ類、可   シ^隔ツ2五句ヲ1。也准ズ^之ニ。 一、可キ^隔ツ2七句ヲ1物   同季 一、可キ2分別ス1事  一 無常 述懷 懷舊(引き合はせて可シ^用フ2三句1)  一 松蟲 木枯 雜田 草枕 柴の庵 葦垣 浮木 葦田 流木 書ク^繪草    木 此等ノ類非ズ2植物ニ1。他准ズ^之ニ。  一 軒菖蒲 末ノ松山 似花雲 朽木  此等ノ類植物也。  一 木葉時雨 月の霜  此等ノ類降物也。  一 夕に日ぐらし 時雨に時の字 五月雨に月 名所の音窒ノ音 名所の    春日に日  此等ノ類非ズ2嫌物ニ1。  一 會坂 不破 足柄關は可シ^嫌フ^山ニ。山無からん關は非ズ^可キニ^    嫌フ。  一 晝の字に日、不^可カラ^嫌フ^之ヲ。  一 思ひに火の字、隨ツテ^體ニ可シ^憚カル^之ヲ。火の心あらば打越を可    シ^憚カル。  一 只、須磨・明石としても浦也。志賀・難波などしては浦に限るべからず。    山里などの有る故也。  一 露といふ句に袖ぬらすと付けて、又ぬれ物可シ^憚カル^之ヲ。中にぬる    ゝ心なくば不^可カラ^憚カル^之ヲ。  一 秋の句に戀の副ひたる句出で來て、只秋を付けて、又戀の秋の句可シ^憚    カル^之ヲ。平秋の句に戀の秋付けて、又平秋の句可シ^憚カル^之ヲ。    他准ズ^之ニ。  一 戀にも雜にも分きがたからんは、以前の句になずらへて用ふべし。    他准ズ^之ニ。  一 朽木といふ句に杣と付けて、又名所可シ^憚カル^之ヲ。  一 森といふ句に生田と付けて、又浦・海可シ^憚カル^之ヲ。他准ズ^之ニ    。  一 妻木の路 若菜摘む野 通路 只野山の遠きなどは、非ズ2旅ノ心ニ1。  一 別れに衣々 涙に袖ぬるゝ、打越・付句可シ^嫌フ^之ヲ。  一 玉章に言の葉 夢にうつゝ 僞に眞  如キ^此ノ類不^付ケ^之ヲ。  一 槇としては木の字に不^可カラ^憚カル^之ヲ。眞木の戸としては木の字    に可シ^嫌フ^之ヲ。字各別の故也。他准ズ^之ニ。  一 植物體用事    假令、春と云ふ句に弓と付きて、又引く・返る・押すなど付くべからず。    是皆用なる故也。本・末とは付くべし。これみな體なる故也。打越に體    あらば、本・末又不^可カラ^然カル。長きと云ふ句に繩と付きて、又短    きなどは不^可カラ^付ク^之ヲ。皆是體也。繰る・引くとは可シ^付ク    。是用也。他准ズ^之ニ。  一 躑躅は木也。藤は草也。  一 音・聲と云ふ字に響、不^可カラ^嫌フ^之ヲ。  一 露の氷るは冬也。  一 鳩は雜なり。鳩吹くは秋也。  一 夕之字に暮の字は打越ばかりを可シ^嫌フ。  一 有曙は時節に嫌ふべからず。  一 雪の花 枝折 非ズ2植物ニ1。  一 鹽屋 宮居 不^可カラ^嫌フ2居所ニ1。  一 枯野の露は秋也。  一 石橋は水邊也。但、山の心あらば水邊に不^可カラ^嫌フ^之ヲ。  一 海士小舟泊瀬山 字に付きて可シ^嫌フ2水邊ニ1。  一 月影に紅葉散るは冬也。但、露など交ぜては秋也。  一 峯 尾上、同事也。  一 玉垣 水垣は非ズ2居所ニ1。  一 てにをはの字、相合はせて付くべからず。 一、可キ^定ム2時節ヲ1事   雪氷の消ゆる 野燒 小田返す 雉 遲櫻 以上春也。   ~祭る 眞菰 單の袖 鳰の浮巣  已上夏也。   日ぐらし 稻妻 鳩吹(只鳩ハ雜也) 露の時雨 楸 冷書き風 うら枯   るゝ草 小田 小鷹狩 枯野ノ露 以上秋也。   木枯 淡雪 涙の時雨 庭火 已上冬也。   山鳥 椿 蓬 ならの葉 淺茅 菅 忍 忘草 蜻蛉 臥猪 蔓 *(區   鳥) 以上雜也。他准ズ^之ニ。   明けはてて 明け過ぎて 暮れはてて 朝曙 朝ぼらけ 夢の世 花の夢   その曉 心の月 鶉の床 心の闇 常橙 已上非ズ^夜ニ。他准ズ^之ニ。   曙 明方 螢 蚊遣火 莚 又寝 床  以上夜也。他准ズ^之ニ。 一、體用ノ事     山ノ體   岡 峯 尾上 麓 坂 岨 谷 嶋 山の關  以上如キ^此ノ類、體也。     同ジク用   梯 瀧 杣木 炭竈  已上如キ^此ノ類、用也。     非ザル^山ニ物   岩橋 杉 洞 猿 薪 妻木 瀧つ瀬  已上如キ^此ノ類、不^可カラ^   嫌フ^山ニ。     水邊ノ體   海 浦 入江 湊 堤 渚 嶋 沖 磯 干潟 汀 水垣 沼 河 池   以上如キ^此ノ類、體也。     同ジク用   舟 浮木 流れ 浪 水 氷 鴛 鴨 千鳥 巣鳥 鳰 蛙 葦 蓮 眞   菰 海松布 藻鹽草 海人 鹽 鹽屋 閼伽結ぶ 浮草 魚 網 釣垂る   ゝ 懸樋  以上如キ^此ノ類、用也。     非ザル2水邊ニ1物   砂 篷屋 霞の網 鶴 鷺 螢 小田返す 杜若 菖蒲 布曝す  已上   如キ^此ノ類、不^可カラ^嫌フ2水邊1。     居所ノ體   軒端 床 里 霞の窓 門 室の戸 庵 戸 樞 窓 瓦 壁 隣 墻   岩屋  以上如キ^此ノ類、體也。     同ジク用   外面 庭  如キ^此ノ類、用也。     非ザル2居所ニ1物   栖 住居 花のあるじ 露のやどり 簾 莚 懸樋  以上如キ^此ノ類、   不^可カラ^嫌フ2居所ニ1。     夜の言葉   鵜飼舟 螢 蚊遣火 庭鳥 莚 枕 床 袖しく 衣々 鐘 照射 燈   如キ^此ノ類、夜也。     人倫   人 我 身 友 父 母 誰 關守  如キ^此ノ類也。     非ザル2人倫ニ1物   月のあるじ 老 命 形 姿 鬚 手 足 目 鼻 口 案山子   如キ  ^此ノ類、不^可カラ^嫌フ2人倫ニ1。     旅ノ詞   舟但、海人舟ハ不^可カラ^嫌フ^旅ニ 草枕 都したふ 見馴れぬ山 馴   らはぬ山  以上如キ^此ノ類。     非ザル^旅ニ物   通ひ地 夢地  以上如キ^此ノ類。     非ズ2居所ニ1非ザル2名所ニ1物   都 あづま 御階 雲上 九重 百敷き  如キ^此ノ類。 一、句數   春 秋 戀以上五句 夏 冬 ~祇 釋ヘ 旅 述懷懷舊無常在リ2此ノ   内ニ1 祝言 山   水邊 居所 以上三句連ヌ^之ヲ。 此ノ嫌物等、當世所2用ヒ來タル1也。但シ、人々ノ所存不ル^同ジカラ歟。  所載ノ新式ニ聊カ注シ2付ケ首書ヲ1畢ンヌ。依リ2當座ノ衆議ニ1、隨ツテ 2先達ノ所ニ1^定ムル、不^可カラ^存ス2異議ヲ1。至リテ2此ノ抄ニ1者 、伺ヒ尋ネ得テ連々ニ可キ2書キ加フ1也。定メテ多カラン2紕繆1歟。更ニ 不ル^可カラ^爲ス2指南ト1而巳。 或田舎人の、連歌はいかなる物ぞと尋ね申ししかば、愚かなる心に、誤れ る事をのみ書きつけ侍る也。もとよりこの道を好み翫びて、先達のヘへを 受けたる事も侍らねば、おのづから耳の底にとゞめおく一節もあるべから ず。只數寄の懇志にひかれて、他人の嘲りをかへり見ず侍り。はやく當道 の明匠を尋ねて、愚昧の邪推を取捨せられ侍るべきにや。 一帖ノ御抄數反拜見、當道ノ奥旨口傳、悉ク以テ無ク^所^殘候歟。就中於 イテハ2所存ニ1、無ク2一事相違1候。當時愛寶、後代龜鏡、何物カ可ク^過 グ^之ニ候哉。雖モ2恐レ憚ルコト無ク^極リ候ト1、爲ニ2後學ノ1故トサ ラニ依リ^仰ニ加ヘ筆ヲ候也。   貞和五年七月十七日                   救 擠判 此ノ抄ハ以テ2小序(玄恵法印)・奥書(救擠法師)等ヲ1爲ス2規模ト1。 更ニ不ル^可カラ^有ル2外見1而巳。                          關路鬼木御判          後普光園攝政良基公御作也。          可シ^祕ス々々。